2008年年次総会ゲスト講演 明石康氏

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2008年年次総会の場では 元国連事務次長、
現日本政府代表スリランカ平和構築及び復旧復興担当の
明石 康氏にご講演頂きました。
日時:2008年6月21日(土) 15:30〜17:00
場所:海洋船舶ビル 10F ホール
演題: 「世界に羽ばたく日本人に求められるもの」

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以下は47期の猿渡さんによる講演録です。
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<概要> 
国際公務員として長年活躍されてきた明石氏が見る世界での日本の現在、
そして国際社会で活躍できる人材となる為には何が必要かということについて
主に国際連合での同氏のご経験からお話しいただきました。

<講演内容>
世界における現在の日本のイメージは、特に近年の中国、インドを中心とする
アジア新興諸国の台頭により希薄化しており、いわば「成熟した大国」と表現できる。
これには元来日本人が持つ「謙譲の美徳」といった特質が起因する他、
バブル後の経済低迷、小泉政権後の政治的リーダーシップの低迷、
また少子高齢化社会への移行に連動する労働力不足といった社会的原因が
挙げられる一方、日本人の自国への満足感から派生する「冒険心の欠如」
もまた大きな一因である。この「冒険心の欠如」は、
17世紀から18世紀にかけてのイギリス、フランスの勢力争いにおいて
地政学的観点から見たフランスの傾向にも見られる。
この争いで、それまでのフランス>イギリスの勢力図は、
それぞれの対植民地への政策により逆転するが、それはフランスが自国への
執着心により他国に適応し根付くことができなかったためと結論付けられる。

国際社会での日本の希薄化は、日本の国連外交の軌跡にも現れる。
1952年に日本は国際連合への加盟申請をするが、
当時の冷戦下において三度に渡るソ連の拒否権の行使により、
加盟が実現したのは1956年12月18日と数年の歳月を経てからであった。
戦後の時代背景下、日本人にはアジア諸国への戦中外交への厳しい反省と共に
アメリカの安全保障の下、国連平和主義の実現により
「国際社会で名誉ある存在となる」という強い意識が広がり、
国際連合を変わりゆく社会での新しい秩序を構成する場所として捉えていた。
そのような戦後の国際社会に臨む日本の決意は、
国連加盟当時の重光外務大臣による演説に顕著に現れている。
日本はその後国連の非常任理事国の一員として、
軍縮、核不拡散の取り組みに協力し、
ODAの供与を通じ発展途上国の発展に寄与し、
そしてPKOへの自衛隊派遣等を行い国際平和維持に貢献をしてきた。
しかしながら、この「国際社会での名誉ある存在」も
中国等アジア新興諸国の台頭と共にODA供与では減少の一途を辿り、
PKO活動では加盟国のうち82番目の実績となるなど、
その存在が希薄化しているのが現状である。

国際社会での日本の希薄化は、国際社会で活躍できる日本人の人材の
少なさに起因するものでもあり、それは足踏み状態の国連職員の
日本人比率からも明らかである。
この原因として、国連の人事制度上の問題もあるものの、
一方で人材の一時的な海外での活躍を阻む年功序列、
終身雇用に基づく日本の雇用形態、語学力がつけられない日本の高等教育が
国際社会で活躍できる人材育成の足かせとなっていると言える。
この打開策として、特に教育の観点からみた場合、
日本の高等教育における英語指導においては、
最近特に重きが置かれる「聞く」「話す」といった訓練の他、
「読み」、「書き」にも比重を置きこの4つをバランスよく指導し、
会話力、ヒアリング力と共に読解力を高める教育が必要であり、
また大学教育においては、語学の他、一般教養力をより重視し、
専門プラス専門に隣接した様々な知的好奇心を養う教育が必要である。
こうした教育が国際社会、とりわけ国際機関で活躍する人材に求められる資質、
すなわち、異なる背景を持つ人々との意思疎通能力、
マルチな外交力を育成することにつながるのである。

 最後にこれから日本人が国際社会で大きく活躍する為の提言として
第一に、限りない知的好奇心を自分の仕事内外に持ち、
「やる気を持つこと」が重要である。
そして、特に国際社会では学歴、国籍に捉われず
個人として仕事が評価されるため、自分の信念を持ち、
自分が納得のできる仕事をすることが重要である。
この際、多くの人の意見を熟慮した上での自らの判断であれば、
他からの評価については時に雑音として処理することも必要である。
(ユーゴスラビアでのPKO活動について、
オルブライト元アメリカ合衆国国務長官からCNN放送で批判された際も、
自らの仕事に対して信念を持ち続けた自らの経験から。)
そして、常に自分に正直であることが重要である。
特に有効な「ノックアウトパンチ」を持たないボクサーでも、
ジャブを繰り返していれば、相手が転がっていることもあるものだ。

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以下は39期富田による雑記です。
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◎世界の中での日本の希薄化
 ・台頭するインド、中国など
 ・バブル以降の日本の元気なさ
 ・他国からの低い評価には、逆に元気になってほしいとのメッセージも感じられる

◎日本人、日本の特質
 高齢化社会
 それでも豊かな日本、豊かさが冒険心を損なっている可能性
 フランスとイギリスを比べると、
  フランスは植民地に行っても国を思い、現地化しない
  イギリスは植民地に根ざしていく
 日本人も日本の環境が豊かであるが故に、
  フランス人に近いのではないか。
 フランス外交
  ミスがあればかなり早期に修正する
  論理的矛盾をあまり気にしない

国連に対する態度
 外交白書
 国連第一主義、親米、親アジア
  後に親米主義に変更
 国連へのあこがれ、美化する傾向
  大国に阻まれた加盟
  アメリカの傘の下で、ロマンティシズムに浸れたのでは
  アジアに対する覇権主義、軍国/大国主義の厳しい反省
  名誉ある存在になりたい
 国連の実態を見ない傾向
  世界政府でも世界連邦でもない
  悪く言えばクラブ
   (もちろんただのクラブではなく、ルールを決める場所となっている、
    軽視するわけにはいかない)
 安保理の非常任理事国
  アメリカに次ぐ分担金
  様々に貢献しているものの厳しい評価をしたい
  平和維持活動への人的貢献不足
  国連で働く日本人の少なさ
   国連人事にも問題あり
   日本の職環境が飛び出しにくさに関係
   日本の高等教育に問題あり(語学)
    日本語/英語(1/2)、一般教育を大学、専門教育を大学院で
   日本社会は均一的
   父兄にも問題
    自分の手元に置きたい/かわいい子に旅をさせない
    最近は女性が多くなった

 英語を話せる必要性
 国際機関では多少母国訛りのある英語でもアイデンティティがあって良い
 読み、書き、話し、聞くのバランス
 マルチの外交、会議外交に熟達する必要
  バイとマルチの2つの外交がある
  各会議に世話役集団(マフィア)が出来る
   その問題についての知識豊かでアドバイスが出来る人達
   このグループに入れると影響が倍加する
   うるさ方になれる

 やる気を持つこと
 仕事以外のことにも興味を
 個人として働けること
  事例:個人としての能力の高さ、フェアなものの見方
 日本人であることを忘れず、自分に正直であること
 他の評価よりも自分で納得できる仕事を。
  人に批判されても、自分の信念を持つ必要
 強いパンチを持っていなくても、ジャブを打ち続ける

以下は当日行われたQ&Aです。
これも47期の猿渡さんが記録してくれました。
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<質疑応答>
Q.国連の人材募集にあたり、
 日本政府、及び国連のPR活動はどのようになされているか?
A.日本は、国連に供給する分担金に見合うだけの人材を確保する目的がある。
 現状では、外務省の国際人事センター等でも、
 国連等での就業についての相談が可能だが、
 実際に国際機関で働く先輩の体験談を参考にすることが極めて有効である。

Q.国際社会で活躍する人材の資質として、語学力以外に交渉能力が必要ではないか?
 アメリカ等で進んでいる「交渉学」の学問も含め、どのように考えるか?
A.交渉能力は、「芸術」であって「学問」ではないという考え。
 日本は元来、ディベートをする社会ではないためこうした能力を養うのは
 難しいとされるが、ルール作りの場により多く出ることでこうした能力を
 養おうとする動きがある。交渉能力の一環として、
 会議場外での会話を理解し、様々な局面で意思疎通を図れる力が
 極めて重要である。

Q.大学時代に自らの専門分野を決め、分析、検証していく専門教育こそが
 重要だと考えるが、どのように考えるか?
A.前の質問と関連し、会議場外での会話を理解するという観点から、
 様々な幅広い見識を持つという事が重要である。
 よって自分の専門プラス専門に隣接した様々な知的好奇心を養う意味で、
 一般教養力は重要である。1つの専門プラス2つの準専門があることが望ましい。
 また、海外で必ず問われる日本の知識についても見識を深めることが重要である。